エゴチスムな日々

イタリアの閑暇そしてその悦楽

スタンダールとヘロディアス

ミラノの王宮博物館(パラッツォ・レアーレ)で7月13日まで開催中の

「ベルナルディーノ・ルイーニとその息子たち」展を観てきました。

 

ベルナルディーノ・ルイーニというと、レオナルド派の画家として

知られていますが、今回展覧会で色々と彼の作品を鑑賞した限り、

レオナルドの影響を受けたのは、1525年頃からではないかなと。

ロンバルディアというよりはヴェネトの影響を受けた作品が多くありました。

 

彼は1480年頃に生まれているので、1525年は45歳頃の時。

52歳で亡くなるルイーニにとっては晩年近くになってから、

それまでとは違う画風、レオナルドの影響を受けるようになった、と

思います。

 

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このルイーニ独自の微笑を含んだ女性が表れ始め、そしてこの絵。

「洗礼者ヨハネの首とサロメ」1527年頃に描かれたものです。

(新約聖書では「サロメ」の名を伝えていないことから、

単にヘロディアスの娘と呼ぶことが多いらしいです。現在この絵は

『サロメ』となっていますが、『ヘロディアス』かもしれない)

 

19世紀のフランス人作家スタンダールはこの絵に特別の思いをこめていました。

彼のイタリア旅行記に、この絵と、それになぞらえた想い人が重なります。

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comment exprimer le ravissement mêlé de respect que m'inspire
l'expression angélique et la finesse si calme de ces traits qui rappellent la noblesse tendre de Léonard de Vinci .

Cette tête qui aurait tant de bonté de justice et d élévation si elle pensait à vous semble rêver à un bonheur absent.
La couleur des cheveux la coupe du front l'encadrement des yeux en font le type de la beauté lombarde.

まるでレオナルド・ダ・ヴィンチの絵のように優しく優雅な貴婦人の

佇まいを思い浮かべる顔立ち、この天使のような表情と繊細な静けさから

引き起こされる、この魅力をどう表現すればいいのだろうか。

 

彼女が誰かを考える時、善意と正義と崇高さの混じったこの顔立ちは

不在の幸福を夢見ているようである。

彼女の髪の色、額の輪郭、縁取られた瞳、それらはまさに

ロンバルディアの美そのものだ。

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スタンダールはミラノの貴婦人(人妻)マティルデに恋をしていました。

結局叶わぬ恋だったのですが、彼はマティルデが「レオナルドの描いた

ヘロディアス」に似ていると言っています。

 

実は19世紀当時、この絵はレオナルドの作品だと思われていました。

それに「ヘロディアス」となってるから、サロメという認識は

なかったのでしょうね。

そしてこの作品は1890年になって初めて「ルイーニ作」と明らかにされたのです。

 

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恐らくルイーニはレオナルドの素描「ほつれ髪の女」を、自身の作品の

サロメ(もしくはヘロディアス)に反映させたのではないかと考えられています。

この静かな微笑みとうつむいた優しい眼差しが、一見して似ていることが

分かります。

 

静かで優雅な画風がスタンダールには気に入ったのでしょう。

失恋した彼は「恋愛論」を書き、そして「パルムの僧院」を仕上げます。

読んだ方はデル・ドンゴ侯爵夫人とサンセヴェリーナ公爵夫人が

作中で、この「ヘロディアス」に似ていると書かれているのに

お気づきになりましたか。

スタンダールは小説の中にいつも自分が愛した女性たちを反映させて

書いていると言われていますが、このマティルデの事はよっぽど

好きだったのでしょう、彼女の面影を追い求めて書き続けていたんですね。

 

引用文:Rome Naples Florence en 1826 : Stendhal

参考文献:スタンダール 愛の祝祭  松原雅典著

        イタリア美術史 田中英道著

     Bernardino Luini e i suoi figli   Giovanni Agosti

 

 


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