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エゴチスムな日々

イタリアの閑暇そしてその悦楽

マザッチョの革新性

フィレンツェのサンタ・マリア・デル・カルミネ教会の中にある

ブランカッチ礼拝堂。ここに描かれたマザッチョの壁画は

「絵画の学校」とも呼ばれ、後のレオナルドも、ラファエロも、

そしてミケランジェロも足しげく通っては模写したと伝えられています。

 

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マザッチョは「絵画の本質は生きている自然をあるがままに、デッサンと

色彩で飾り気なく、出来る限り正確に再現することだ」と考えていました。

この考えこそが、ルネサンス美術の基本的な姿勢であり、自然模倣そして

現実再現を目指したマザッチョが、このブランカッチ礼拝堂で見事に

表現したといえます。

 

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マザッチョは建築家ブルネレスキが試みた線遠近法を駆使し、ひとつの

光源(窓から差し込む光)を想定して、陰影も投影も描いています!

約1世紀前のジョットにはこの「投影」という試みはありませんでした。

 

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(ジョットの有名な「ユダの接吻」には陰影で体のボリューム感は

表現されていても、投影は描かれていません)

 

そしてもっとも素晴らしいのが「楽園追放」のアダムとエヴァ。

 

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彼らの足元にも影があり、奥行きのある空間を表現しています。

追放されるエヴァの表情・・・二度と取り戻すことのできない至福の日々、

浅はかであった自らの行為は悔やんでも悔やみきれないという嘆きが凝縮され、

一度見たら二度と忘れられないような印象的な表情。その横で絶望のあまり

顔を覆うアダム。何度見ても感動的なシーンです。


こうした奥行きのある空間や激しい感情表現こそ、ルネサンス美術が

新たに獲得したもので、まさにマザッチョこそがその先駆者にふさわしいと

言えるでしょう。

 

マザッチョといえば忘れてはいけないのがナポリにあるキリスト磔刑図。

 

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マグダラのマリアが、なんと後ろ向きで若干大げさともいえる

ジェスチャーで嘆きの表現がされていますが、こうした後ろ姿で

マグダラのマリアが描かれたのは、おそらくこの絵が初めてとの事。

当時としては新しくかつ大胆な試みだったのではないでしょうか。

 

またこのキリストの体の表現方法もそれまでと違って、どうも

見る人の視点(つまり下から上を向いてこの絵を見る)を考慮し、

描いているように見受けられます。

 

そうした見る人の視点を考えた作品の主要なものがこちら。

ご存じ、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会の「三位一体」です。

 

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この磔刑図の背景はゴルゴダの丘ではなく、ブルネレスキ風の

美しいアーチの建築が活かされている空間。完ぺきな遠近法で

描かれていて、奥行きを感じさせます。

キリストの顔は理想化された顔ではなく、人間らしい顔であることも

特徴でしょう。何より、聖母マリアの顔が、フィレンツェの町中を

歩いている、普通の女性のような表情なのです!

 

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そして、このしぐさ。聖母のこうした見る人への注意をどことなく

促すように描かれているのも、実はこの絵が初めてなのです!

 

ヴァザーリは「マザッチョはいつも雲の上にいるようで、心はいつも芸術にあり、

自分のことはもとより、他人のことも全く構わなかった」と書いています。

なるほど、少しマザッチョが理解できるような気がしますね。

 

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マザッチョの自画像と言われていますが、意思の強そうな瞳が印象的。

彼は1401年12月21日に生まれ、なんと27歳という若さで亡くなりました。

またまたヴァザーリの言ですが「毒殺以外に死因は考えられないという

人に事欠かない」とか。素晴らしい才能に嫉妬した誰かが毒を盛ったの

でしょうか・・・それとも、他人のことにも構わない無頓着なマザッチョ

だったので、敵が案外多かったのでしょうか・・・

 

いずれにせよ、マザッチョの「自然主義」がルネサンスの出発点であること

には間違いがないようです。

 


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