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エゴチスムな日々

イタリアの閑暇そしてその悦楽

カストラートとは

今回は少し毛色の変わった内容です。

(以前別のブログに書いたものですが、こちらに移します)

 

もうかれこれ20年以上も前になりますが、

カストラート」という映画があったので
ご覧になった方も多いかと思いますし、この言葉を

ご存じの方も少なからずいらっしゃると思います。

 

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Castratoとは去勢されたとか去勢された羊というイタリア語。
ほとんどカストラート歌手(去勢した男性の歌手)という意味で

使用されるようです。


音楽や美声を目的として去勢歌手を用いたのは
12世紀頃のスペインだったと言われています。
(美声や音楽以外の目的、つまり宦官や去勢奴隷などは

もっと以前から古今東西色々とあったようですが)

16世紀にはイタリアで「公式の」カストラート歌手が

教皇聖歌隊として登場しました。
これはおそらく時代を同じくしてイタリアでオペラが誕生した

ことも関係があるかもしれません。


また教会音楽からオペラ界へカストラート歌手たちが

活躍の場を広げていき、貧困家庭において息子が

カストラート歌手になる事が貧しさから

抜け出す一つの方法だとも考えていたフシもあるようです。

つまりカストラート歌手の最盛期バロック時代においても

裕福層や貴族層からカストラートは一切出ていないのが

その証拠でもあるでしょう。

 

一説によると最盛期である18世紀には年間4000人!もの
貧しい少年達が去勢手術をしたという統計もあるとか。

 

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 (ファリネッリの肖像画)


映画「カストラート」の主役ファリネッリこと

カルロ・ブロスキは実在の人物です。
(ファリネッリは実は彼の師の名前で、それを

愛称にしていました)
歴史上一番有名なカストラート歌手で、

1720年から1759年まで

イタリアのみならずヨーロッパ中の宮廷で

引く手あまたの人気を誇っていました。


バロック・オペラにはカストラートが欠かせない存在でもあり、

当時男性オペラ歌手の約7割がカストラートだったと

言われています。すごい割合ですね。

 

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(ルイージ・マルケージの肖像画)

 

またミラノ出身のカストラート歌手では、甘いマスクも

手伝って成功をおさめたルイージ・マルケージが有名です。

1765年、ルイージが11歳の時にはすでにミラノ大聖堂ドゥオモ
聖歌隊として歌ったという記録が残っているそうで、
彼らはおそらく7歳〜11歳までに去勢手術を受けたと思われます。


しかし当時の手術といっても肉屋や理髪師といった人たちが

担当しており、その手術レベルはたかが知れていますね・・・

つまり最悪の場合は命を落とす少年たちも大勢いたと

いうことになります。想像の範囲ですが。

それに去勢したからといって、誰でもファルネッリのように

ヨーロッパ中の宮廷に呼ばれるほど成功するワケでもありません。


7歳や8歳の時に手術をして、その後結局「才能」がなく

芽が出なかった少年のほうが数から言えば多かったのでは

ないかと思うと、居たたまれない気持ちになりますね。


でも、二度と体は元には戻りません。
体だけは大人になり、声変わりをせず、結婚もできず
(カトリック教会は子孫を残せないカストラートの

結婚に否定的だったとか)、一生嘲笑の的になる

運命を背負って生きなければならないとしたら・・・

あまりに過酷な人生だと思います。

またカストラート歌手というのは同時期のイギリスや

ドイツなどではほとんど存在していなかったようで、
フランスにおいては憎悪の対象だったらしいです。

ナポレオンもイタリアにおけるカストラートの

徹底的な廃絶を目指していたようですが、面白いことに
カストラート歌手のオペラなどは鑑賞していたとか。
感覚では魅せられ、理性で拒絶。

こうしたカストラートに関する感情は
フランスやイギリスで多々見られていたようです。

1861年かろうじてイタリア統一を果たし、フランスの
法律などを組み入れたイタリアで去勢手術は違法

やっと決定しました。
また啓蒙主義の名のもとに「非人道的」な、

ただ王侯貴族たちが美声を聞きたいがための
カストラート歌手養成は19世紀には

激しい攻撃の的になっています。

オペラ界からカストラート歌手が消え、

正式に去勢手術は禁止。
では約3世紀間に渡ってオペラ界を席巻した

カストラート達は本当に全くいなくなって

しまったのでしょうか?

実はカトリック教会ではまだカストラート歌手が

神を讃える天使の声を発していました・・・


そして手術をする外科医を教会は罰しつつ、

大いなるイタリア的な矛盾を抱えながら
カストラート達はなんとシスティーナ礼拝堂で

歌い続けていたのです!

 

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(アレッサンドロ・モレスキ)

 

最後のカストラートと言われるアレッサンドロ・モレスキ
彼が手術を受けたのは1865年頃と言われていて、

なんと法律で禁止された後!

「ローマの天使」とよばれたアレッサンドロは1883年
システィーナ礼拝堂の聖歌隊に採用され、

その後サン・ピエトロ大聖堂の聖歌隊に加わりました。


1913年(20世紀!)に聖歌隊を引退。

歴史上最後のカストラート歌手でした。
そして1922年に亡くなります。62年の生涯でした。

なんとアレッサンドロは1902年と1904年

レコーディングをしているのです!
現在はCD化され(音質は悪く、彼の最盛期の声ではない)

21世紀の私たちも妖しい魅力に満ちた

カストラートの声を聞ける光栄にあります。

彼の歌う「アヴェ・マリア」です
この何とも形容しがたい声を聞くと

王侯貴族のただ娯楽のために、
そして神を讃える歌を歌うためだけに、

命を落としていった少年たちや儚い人生の
カストラート達を思うと切なくなってくる、そんな声でした。

 

www.youtube.com

 


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